阿霞

蒲松齢
田中貢太郎訳

阿霞書籍情報

底本:「聊斎志異」明徳出版社
   1997(平成9)年4月30日初版発行
底本の親本:「支那文学大観 第十二巻(聊斎志異)」支那文学大観刊行会
   1926(大正15)年3月発行
入力:門田裕志
校正:松永正敏

阿霞 8

蒲松齢
田中貢太郎訳

彼は大声をあげて叫ぶようにいった。
「阿霞、君は昔の約束を忘れたのか。」
 下男達は景が主婦の名を口にするのを聞いて、怒ってなぐりつけようとした。女はそれを止めて、障紗(かおおおい)を啓(あ)けて景にいった。
「人に負いておいて、どんな顔をして私を見るのです。」
 景はいった。
「君が自分で僕に負いてるじゃないか。僕が何を君に負いたのだ。」
 女はいった。
「奥さんに負くのは、私に負くよりもひどいです。少さい時から夫婦になっている者さえそうするのですから、まして他の者であったら、どうするのでしょう。先には先祖の徳が厚くて、及第者の名簿に乗っていたのですから、身を委(まか)してましたが、今は奥さんを棄てたために、冥官(あのよのやくにん)から福を削られたのです。今年の試験の亜魁(あかい)になる王昌はあなたの名に替るのです。私はもう鄭に片づきましたから、私のことを心配してくださらなくってもいいのです。」
 景は俯向(うつむ)いたままで何もいうことができなかった。