蒲松齢
田中貢太郎訳
底本:「聊斎志異」明徳出版社
1997(平成9)年4月30日初版発行
底本の親本:「支那文学大観 第十二巻(聊斎志異)」支那文学大観刊行会
1926(大正15)年3月発行
入力:門田裕志
校正:松永正敏
蒲松齢
田中貢太郎訳
後半年ばかりしてのことであった。ある日、景が途(みち)を歩いていると、一人の女郎(むすめ)が朱(あか)い衣服を着て、たくさんの下男を伴(つ)れ、黒い驢(ろば)に乗って来るのを見た。それを見ると阿霞であった。そこで景は伴をしている下男の一人に訊いた。
「奥さんは何という方です。」
すると下男が答えた。
「南の村の鄭(てい)公子の二度目の奥さまでございます。」
景はまた訊いた。
「いつ婚礼をしたのです。」
下男はいった。
「半月ほど前でございます。」
景は半月[#「半月」は底本では「年月」]位前とはおかしいと思った。
「それは思いちがいじゃないかね。」
驢の上の女郎はこの言葉を聞いて、振り向いてじっと見た。それはほんとうの阿霞であった。景は女が約束に負(そむ)いて他の家へ適(い)ったのを知って憤(いきどお)りで胸の中が一ぱいになった。