蒲松齢
田中貢太郎訳
底本:「聊斎志異」明徳出版社
1997(平成9)年4月30日初版発行
底本の親本:「支那文学大観 第十二巻(聊斎志異)」支那文学大観刊行会
1926(大正15)年3月発行
入力:門田裕志
校正:松永正敏
蒲松齢
田中貢太郎訳
景はその後で女をいつまでも書斎におくことができないから、母屋の方へおきたいと思ったが、そうすると細君がひどく嫉妬しそうであるから、それにはいっそ細君を離縁するがいいと思った。とうとう腹を決めて、細君が傍(そば)へ来ると口ぎたなく罵(ののし)った。細君はその辱(はずかし)めに堪えられないで、泣きながら死のうとした。景はいった。
「ここで死なれちゃ、俺がまきぞえに逢うのだ。どうか早く帰ってくれ。」
とうとう細君をおしだすようにして伴れていこうとした。細君は啼(な)いていった。
「私は、あなたの所へまいりまして十年になります。まだ一度だって悪いことをしたことがないのに、なぜ離縁するのです。」
景は細君の言葉には耳を傾けないで、細君をおったてた。細君はそこで門を出ていった。景は壁を塗り塵を除けて阿霞の来るのを待っていたが、来もしなければ消息もなかった。