蒲松齢
田中貢太郎訳
底本:「聊斎志異」明徳出版社
1997(平成9)年4月30日初版発行
底本の親本:「支那文学大観 第十二巻(聊斎志異)」支那文学大観刊行会
1926(大正15)年3月発行
入力:門田裕志
校正:松永正敏
蒲松齢
田中貢太郎訳
数日して女がいった。
「私、ちょっと帰ってまいります。それにここは人の出入が多くて、私がいては人に迷惑をかけますから、今から夜よるまいります。」
といった。景は、
「きみの家はどこだね。」
というと、女はいった。
「あまり遠くないことよ。」
とうとう朝早く帰っていったが、夜になると果して来た。二人の間の懽愛(かんあい)はきわめて篤(あつ)かった。また数日して女はいった。
「私たち二人の間は佳(い)いのですけど、いってみると馴れあいですからね。私のお父様が官途に就(つ)いて、西域(せいいき)の方へいくことになって、明日お母さんを伴(つ)れて出発するのですから、それまでに好い機(おり)を見て、お父さんとお母さんの許しを受けて、一生お側にいられるようにして来ますわ。」
景は訊いた。
「じゃ、幾日したら来る。」
女は、
「十日したらまいります。」
と約束して帰っていった。