蒲松齢
田中貢太郎訳
底本:「聊斎志異」明徳出版社
1997(平成9)年4月30日初版発行
底本の親本:「支那文学大観 第十二巻(聊斎志異)」支那文学大観刊行会
1926(大正15)年3月発行
入力:門田裕志
校正:松永正敏
蒲松齢
田中貢太郎訳
陳は女を伴(つ)れて帰り、燈(あかり)を点(つ)けてよく見ると、ひどく佳(い)い容色(きりょう)をしていた。陳は悦んで自分の有(もの)にしようとした。女は大きな声をたててこばんだ。やかましくいう声が隣りまで聞えた。景は何事だろうと思って牆(かき)を乗り越えて窺きに来た。陳はそこで女を放した。女は景を見つけてじっと見ていたが、暫くしてそのまま走って出ていった。陳と景とは一緒になって逐(お)っかけたが、どこへいったのか解らなくなってしまった。
景は自分の室へ帰って戸を閉めて寝ようとした。と、さっきの女がすらすらと寝室の中から出て来た。景はびっくりして訊いた。
「なぜ、きみは、陳君の所から逃げたかね。」
女はいった。
「あの方は、徳が薄いのに、福が浅いから、頼みにならないですわ。」
景はひどく喜んで、
「きみは、何というのだ。」
といって訊いた。女はいった。
「私の先祖が斉(せい)にいたものですから、斉を姓としてるのですよ。私の幼な名は阿霞(あか)といいますの。」
二人は寝室の中へ入った。景はそこで冗談をいったが、女は笑ってこばまなかった。とうとう女は景の許にいることになった。景の書斎へ友人がたくさん来た。女はいつも奥の室に隠れていた。