蒲松齢
田中貢太郎訳
底本:「聊斎志異」明徳出版社
1997(平成9)年4月30日初版発行
底本の親本:「支那文学大観 第十二巻(聊斎志異)」支那文学大観刊行会
1926(大正15)年3月発行
入力:門田裕志
校正:松永正敏
蒲松齢
田中貢太郎訳
文登(ぶんとう)の景星(けいせい)は少年の時から名があって人に重んぜられていた。陳(ちん)生と隣りあわせに住んでいたが、そこと自分の書斎とは僅かに袖垣(そでがき)一つを隔てているにすぎなかった。
ある日の夕暮、陳は荒れはてた寂しい所を通っていると、傍の松や柏の茂った中から女の啼(な)く声が聞えて来た。近くへいってみると、横にしだれた樹の枝に帯をかけて、縊死(いし)しようとしているらしい者がいた。陳は、
「なぜ、そんなことをするのです。」
といって訊いた。